東京地方裁判所 昭和43年(借チ)1013号 決定
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〔決定理由〕一、本件申立の趣旨及び理由の要旨は、
2 ……本件土地は都電並木橋停留所の傍にあり、商業地域かつ防火地域に属し、附近の建物は二階建以上となつているが、申立人所有の建物は平屋建で、五人の家族が使用するには甚だ手狭である。そこで申立人は、右建物に二階を増築し、かつ現存建物の土台、柱等の腐朽している部分を補修するため、別紙(三)のとおりの増改築を計画している。……
二、これに対する相手方の主張の要旨は
1 ……
2 本件賃貸借には増改築制限の特約があり、本件増改築はこの制限に触れるばかりでなく、本件賃貸借の残存期間は五年余りに過ぎず、相手方は後述のように自ら本件土地を使用する必要があり、期間満了の際には更新を拒絶するつもりであるところ、申立人主張の増改築にかかる建物は残存期間を超えて存続することは明らかであるから、相手方はこれを承諾するわけには行かない。
3 相手方が本件土地を必要とする事情は次のとおりである。すなわち、相手方は夫とともに、本件土地の南隣で豆腐こんにやくの製造販売をしているところ、渋谷保健所から食品衛生上豆腐とこんにやくの製造場所を分離するよう求められているが、現状のままでは店舗の面積の関係からこれに応ずることができない。かような関係と営業拡張の必要から、期間満了時には本件土地を明渡して貰わねばならない。
右の事情によれば、期間満了時における更新拒絶の正当の事由があるというべきであり、本件申立は棄却すべきであるというのである。
三、本件で調べた資料によると、申立人の計画する増改築は法令の制限に反する点もなく、借地の通常の利用上相当ということができ、その他隣地の関係においても格別不当とすべき点のないことが認められる。よつて、本件申立については一般的な許可の要件は充たされるといえる。
ところで、本件において相手方は、自己使用の必要を理由に残存期間の満了にあたつて更新拒絶をするから、申立を棄却すべき旨主張するのでこの点について考察する。
本件賃貸借における残存期間は昭和四九年二月二日までであつて、あまり遠くない時期に満了となるわけである。たゞ本件において、右期間満了時における更新拒絶の正当の事由の有無は、後日訴訟になつた場合、判決裁判所の決すべきものであり、現在これを判断することは必ずしも容易でないのであるが、証人甲、乙の各証言その他本件で調べた資料によつて認められる当事者双方に存する事情に基き考える限り右期間満了において必ずしも更新拒絶の正当の事由があるとも断じ難い。それ故、右相手方の主張を採つて本件申立を排斥すべきではないと考える。
よつて、本件申立はこれを認容すべきである。
四、次に附随の処分について考える。
1 まず、期間については、相手方は期間満了時に更新拒絶をし、土地の明渡を強く望んでおり、その土地使用を必要とする事情として述べているところは必ずしも無視できないと考えられるので、期間の延長によつてその利益を奪うのは相当でないというべきである。それ故、期間はそのままとし、これを前提として次に財産上の給付について考える。
2 資料によると、本件借地上に存する建物は終戦後間もなく、あまり良質でない材料を用いて建てられたもので、全体として古くなつていることが認められ、本件の増改築がなされると、新たに二階部分が建築され階下の損傷部分にも相当の改修が加えられる結果、建物の命数は全体としてかなり延びることになる。それ故、期間延長の裁判をしないとしても、相手方に不利益を与えることが考えられる。
すなわち、本件に顕われた事情によれば、相手方は期間満了の際更新を拒絶するものと考えられるが、これによつて賃貸借が終了する場合建物買取の請求がなされたときの買取価格が増大するであろう。また更新された場合、相手方は建物の朽廃による借地権の消滅を期待することになろうが、本件の増改築によつてその時期は相当延びることになる。
本件において、財産上の給付を考える場合これらの点を考慮すべきである。
鑑定委員会の意見は、本件において期間延長の裁判をしないところから、二階の増築による借地の利用効率の増大に着目し、右増築による収益の増加分から、これに要する投資額に対する適正利潤及び必要経費を控除した額を求めこれを財産上の給付及び賃料の増額の二つの方法で地主に還元すべきものとし、財産上の給付額を二一万九、〇〇〇円とし、賃料につき月額3.3平方米当り七〇円の増額をして二〇〇円(全体で月額四、四〇〇円)とするを相当としている。
右は算定方法としては明確であるが、当裁判所は、かような効用の増加をそのまま財産上の給付額の決定に反映させるのは相当でなく、本件においては、賃料の増額についてのみこれを考慮し、財産上の給付額の決定については、これを基礎としないのが相当であると考える(本件のような土地において、建築できる建物を現存の木造平家建に制限しながら、近隣の土地と同程度の賃料が支払われているとすれば、むしろかようなこれまでの状態が合理的でなかつたといえよう)。
かような見地から、財産上の給付については、本件借地に関する従前の経過(権利金、名義書換料等の金銭は支払われていない)及び前述の相手方の蒙ることあるべき不利益を考慮してこれを決定することにする。後者については未確定の要素もあつて算式の定立は困難であるが、後述の賃料の増額等の諸事情をも考慮し、借地権価格(鑑定委員会の意見に従い七〇四万円とする)の二パーセント強にあたる一五万円をもつて給付額と定める。
3 賃料については、鑑定委員会の意見を参酌し、なお、本件の増改築による土地利用効率の増加を反映させる点につき若干の修正を加え、一ケ月四、〇〇〇円(3.3平米方当り約一八〇円)に増額することとする。(安岡満彦)
(別紙)
(一) 借地
東京都渋谷区東一丁目一四四番
宅地 146.18平方米のうち公道から向つて右側72.72平方米(22坪)
(二) 現存建物
(家屋番号 一四四番四)
木造鉄板葺平家建 居宅兼店舗 一棟
床面積 48.76平方米(14.75坪)
(三) 増改築の内容
(イ) 現存建物の二階に床面積47.80ないし48.26平方米の木造住宅用の建物を増築する。
(ロ) 右二階部分を支えるため、現存建物の外側に柱を設け、軽量鉄骨の梁を設ける。
(ハ) 現存建物の台所及び浴室を改築し、土台及び柱の根回りの損傷部分を補修する。
(ニ) なお、右建物のその他の部分も内装を新規にし、外壁及び軒裏を防火構造とする。 以上